小麦粉はパンを構成するものの中で最も大きな割合を占める原料材です。
パンのおよそ半分が小麦粉と言ってよいでしょう。つまり、小麦粉選びでパンのおいしさも大きく変化します。
ここではパン作りに必要な小麦粉の成分や性質を学び、どのような小麦粉を選ぶとどのような変化をパンに与えるのか解説していきます。
目次
小麦粉の成分
通常製パンに使われる小麦粉は小麦の胚乳と言われる中心部分を粉にしたものです。
およそ70%の炭水化物と10%のたんぱく質からできています。
炭水化物は水といっしょに加熱することで糊化(お米が炊けるのと同じ)し、消化できるようになりエネルギー源となります。
たんぱく質はグルテンと呼ばれるものです。グルテンは小麦特有のたんぱく質でパン生地の骨格を構成する重要な成分です。
他には、灰分と呼ばれるミネラルや脂質が含まれます。
炭水化物
小麦の炭水化物はほとんど糖質です。糖質カットダイエットでパンを抜くのはパンには糖質がたくさん含まれているからですね。
ただし、ブランと呼ばれる小麦の皮の部分は食物繊維が豊富で糖質が少ない特徴があります。
糖質をさらに見ていくとアミロース、アミロペクチンに分けられます。お米に例えるとうるち米はアミロースが多く、もち米はアミロペクチンが多く含まれます。小麦も同じく、アミロペクチンが多い方がモチモチ感が強くなります。
そして、パンは時間が経つとパサパサしてきますが、これはアミロース、アミロペクチンの「老化」が深く関わっています。水と熱で糊化したアミロース、アミロペクチンが再び結晶化してしまうことでパサパサした食感になります。
この「老化」をなんとかすればふんわりしっとりが長続きするということになります。
グルテン
グルテンはグルテニンとグリアジンというたんぱく質が結合したもので、グルテニンが弾性、グリアジンが粘性を示すことで、パン生地の独特の感触を生み出しています。この強弱が小麦粉ごとに異なり、パンの作りやすさや出来上がったパンの食感、風味につながります。
パンに適した小麦粉は強力粉と呼ばれるものでたんぱく質(グルテン)量が多いものを指します。
ちなみに、おそらく国産小麦でもっとも有名な「ゆめちから」は超強力粉と呼ばれ、強い質のグルテンがとても多く入っているため、ゆめちから100%だととてもパンが作りにくい小麦粉です。しかし、独特のモチモチ(ムギュムギュ)食感をもつのでうまく使いこなせればとても面白いパンになります。
ちなみにうどんには中力粉、ケーキには薄力粉が適しており、それぞれグルテン量とグルテンの質が違います。
そして、パンに使ってはいけないというわけではありません。求める食感によって使い分けるとパンの表現が広がります。自分だけの味、食感を表現できますね。
グルテンに関してはこちらでより詳しく解説しています。
脂質
小麦粉中の2%弱ほどしか含まれない脂質ですが、パンを作る上で地味~に仕事してます。
小麦粉の脂質の一部に「極性脂質」というものが含まれますが、グルテンに作用して生地形成で重要な働きをします。極性は水道の蛇口からチョロチョロと出した水に静電気を溜めた下敷きを近づけると水が曲がるという実験で良く見ます。電気的に引きつけ合ったり反発したりといった現象です。
具体的には電気的にグルテンを凝集させ結合を良くしたり、塩を添加した際に生地を引き締める効果に関与しています。
極性脂質の量や質をいじるのは不可能ですが、この性質を利用して伸びやすい生地にしたり、生地をしっかりさせてやったりとコントロールすることができます。
小麦粉の種類
小麦粉は「強力粉」「中力粉」「薄力粉」「デュラムセモリナ」といったものに分類できます。
また、産地や品種によって違いがあり、最適なものがブレンドされて製パンに適した小麦粉がつくられます。
強力粉はたんぱく含有量が多く強靭なたんぱく質を含みます。製パンに最も適しており、力強くのびる生地がパンをふっくらしっとり焼き上げられます。小麦粉の粒径は大きく60μm程度です。
中力粉はたんぱく含有量が中程度でやわらかいたんぱく質を含みます。うどん、そうめん等に適しておりガムのように伸びる生地が適度な弾力と滑らかなのどごしを生みます。小麦粉の粒径は中位で50μm程度です。
薄力粉はたんぱく含有量が少なく力の弱いグルテンを含みます。ケーキやクッキー、てんぷら粉等に適しておりホロホロ、サクサク、くちどけの良い食感を生みます。小麦粉の粒径は小さく40μm程度です。
デュラムセモリナはたんぱく含有量が多く強靭で伸びにくいたんぱく質を含みます。主な用途はパスタです。「セモリナ」という言葉は小麦粉の挽き方をあらわすもので、「粗挽き」を意味します。デュラム小麦は非常に硬い性質を持つので粗挽きとなり、今ではデュラム粉自体をセモリナと表現する人もいます。
強力、中力、薄力の中にも「1等粉」「2等粉」「3等粉」「4等粉(末粉)」と分類され灰分(ミネラル分)の量が異なり4等粉が最も灰分が多くなります。これは小麦の皮の部分がどの程度含まれるのかという違いです。
日本では白くふっくらしたパンが好まれるため1等粉、2等粉が主に製パン等加工食品に使用され、3等粉はでんぷんやグルテンを取り出すことに使われます。そして4等粉は工業用や動物の飼料として使用されます。
白くふんわりしたパンが作りたければ強力1等粉、麦の香りの強いパンを作りたければ強力2等粉、ホロホロとくちどけの良いパンを作りたければ1等薄力粉を選択すると良いでしょう。ただし、薄力粉の製パンはグルテン量が少なく、力も弱いため少し難易度が上がります。デュラム粉はしっかりした食感と独特の甘みを感じられるでしょう。
国産小麦も最近はおいしい品種が増えています。筆者のしろは、「春よこい」「きたのかおり」「みなみのかおり」が好きです。小麦の香ばしさと甘みのバランスが良く、副原料に頼らなくてもおいしいパンに仕上げられます。
興味がありましたらぜひ一度作ってみてはいかがでしょうか。